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最高裁判所第三小法廷 昭和57年(オ)1136号 判決

上告人

函館交通株式会社

右代表者代表取締役

畑中八美

右訴訟代理人弁護士

嶋田敬

菅原憲夫

嶋田敬昌

被上告人

廣瀬義彦

右当事者間の札幌高等裁判所昭和五六年(ネ)第一七五号解雇無効確認等請求事件について、同裁判所が昭和五七年七月一九日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人嶋田敬、同菅原憲夫、同嶋田敬昌の上告理由について

原審の適法に確定するところによると、本件アンケート調査活動のうち、被上告人自身が行った活動は、休憩時間中又は勤務時間終了後の行為であって、その所要時間や行為の態様等から他の従業員の休憩や残務処理、ひいては上告会社の職場秩序に支障を来すものではなく、また、被上告人以外の者の行った活動は、その一部が勤務時間内にわたって行われたものであるが、被上告人がこれらの者と右活動の具体的時期、方法についてまで協議した事実は認められない、というのであるから、右事実関係のもとにおいて、本件アンケート調査活動をもって被上告人につき上告会社の就業規則五七条六号所定の「故なく会社の業務上の指示命令に従わず又は事業上の秩序を乱した時」との懲戒事由に該当するとはいえないとした原審の判断は、これを是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は、採用することができない。

よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 伊藤正己 裁判官 安岡滿彦 裁判官 長島敦 裁判官 坂上壽夫)

上告代理人の上告理由

第一、原判決には、判決の結論に影響を及ぼすことが明らかな法令違背が存する。

一、原審は、被上告人らのなした本件アンケート調査活動について、「その目的において正当なものであり、かつその一部に勤務時間中になされたものがあるけれども、これもその所要時間や行為の態様に照らすと、実質的に控訴人(上告人)の職場の秩序等に支障をきたすとまでいえるようなものではない」(原判決四枚目4、第一審判決二六枚目表七行目以下)として、上告人の就業規則五七条六号の「故なく会社の業務上の指示命令に従わず又は事業上の秩序を乱した時」との懲戒事由に該当するものとはいえない旨判断した。しかし、右アンケート調査活動は、右懲戒事由に該当するものというべきであり、これに該当しないとする原審の右判断は、法令の解釈適用を誤ったものである。

(1) 被上告人のアンケート調査活動は、そのほとんどが一部休憩時間をふくむ勤務時間中に上告人の事業所内においてなされたものである(同アンケート調査活動は、被上告人その他の者の共同による行為であるから、被上告人は自ら具体的になした行為のみならず、その全体について責任を問題とされるべきことは当然である)。そもそも、従業員は、勤務時間中に使用者の指揮命令に従い、誠実に労務に服する義務を有し、その職務の遂行に専念しなければならないのであるから、従業員が勤務時間中に事業所内において他従業員に対するアンケート調査活動のごとき勤務外の活動を行うことは使用者の承認のない限り許されるべきものではない。また、たとえ休憩時間中であっても、事業所は使用者がその経営目的を達するため管理するものであるから、事業所内での従業員の活動は使用者の右管理権にもとづく規制を免れず、右アンケート調査活動のごとき勤務外の活動を行うについては使用者の承認が必要とされるべきである。さらに上告人の事業所内においては、労働組合が勤務時間中に組合活動を行うについてその旨事前に上告人に通告してその承認を受けるべきものとする慣行が存在するところ労働組合による決定、承認を得ていない従業員の勤務時間中の勤務外活動については、それに比してより保証を受けるべき労働組合の活動においてさえ上告人の承認を要するとされていることからすればその承認を要するとされるべきことは当然である。しかるに、被上告人らのアンケート調査活動は、事前に上告人の承認を受けるべきとの右労使間のルールを無視して行われたもので、上告人の事業所に対する管理権を侵害し、勤務時間中においては被上告人ら自らの労務提供義務の不履行にとどまらず、活動の対象である他従業員の労務提供を阻害して上告人の業務に支障を生じさせるものであり、また休憩時間中においても他従業員の休憩時間の利用を妨げ、ひいてはその後の作業能率の低下をまねくおそれがあるものであって、正に企業秩序の維持に支障をきたすものというべきである。さらに、この活動は、労働組合の決定承認を得ずしてなされたものであるから労働組合の活動ということはできず、また上告人の承認なくしてことさらこれを行わねばならないような緊急の必要性あるものでもなかったから、特別にこれが保護されるべき理由もない。してみれば、これが右就業規則五七条六号所定の懲戒理由に該当することは当然といわねばならない。

(2) そうすると、被上告人らの右アンケート調査活動について上告人の事業所内において勤務時間中に行われたとの事実を認定しながら、それが右懲戒事由に該当しないとした原審の判断は、結局従業員の事業所内での勤務時間中の勤務外活動が違法であるとすべき法令の解釈適用を誤ったものというべきである。

二、原審は、被上告人らの本件アンケート調査活動が懲戒事由に該当しないとの判断を前提とし、その論理的帰結として結局上告人の被上告人に対する本件解雇を無効と判断して、被上告人(原告、被控訴人)の請求を全部認容した第一審判決を肯認し上告人(被告、控訴人)の控訴を棄却した。してみれば、原判決の結論は、前記のとおり法令の誤った解釈適用によりなされた判断を論理的前提として下されたものというべきであり、その違法が判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。

三、以上のとおり、原判決には、法令の解釈適用に誤りがあり、その違法が判決に影響を及ぼすことが明らかであるから破棄を免れない。

第二、原判決には、理由不備の違法が存する。

前記のとおり、従業員が事業所内において勤務時間中勤務外の活動を行うことは、使用者の承認なくしては許されないものである。しかるに、原審は、被上告人らの本件アンケート調査活動について上告人の事業所内において勤務時間中になされた事実を認定しながら、これが実質的に上告人の職場の秩序等に支障をきたすとまでいえるようなものではないとして懲戒事由に該当しないと判断したのは、極めて合理性に乏しいものというべきである。したがって、原判決には、この点につき理由不備の違法があり、破棄を免れない。 以上

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